反社会的勢力を排除する!~そのために必要な社内体制とは?
【第6回】 『反社チェックのポイント(その2)』
前回は、不透明化・巧妙化する反社会的勢力の実態をふまえ、反社会的勢力見極めのための調査(以下「反社チェック」という。)のあり方として、以下についてお話いたしました。
○データベースによる表面的なスクリーニングといった定点観測的な反社チェックだけでは十分な見極めが難しいこと
○最終的に「関係を持つべきでない相手」を排除できるだけの十分な深度が求められていること
○実務上は、調査内容に濃淡をつける「層別管理」の考え方が有効であるが、説明責任の観点から、客観的・合理的な基準の設定、例外のない厳格な運用、速やかな排除を可能にする体制の整備が求められていること
1) 反社チェックの調査範囲
企業が反社チェックを行う場合には、商業登記簿謄本(以下「謄本」という。)を取得するなどして把握した「現在の商号と役員(取締役・監査役)」について、過去の記事の検索や専門会社の公知情報データベースに照合して該当事項がないかを確認するのが一般的です。しかしながら、反社会的勢力は、そのような企業の反社チェックのレベルを既に見越して巧妙に実態を隠しており、表面的な情報だけで反社会的勢力を見極めることが困難になってきています。
従って、実効性ある反社チェックのためには、閉鎖謄本を取得するなどして「退任した役員」「会社設立当時の役員」「会社の来歴」にまでチェック対象を拡げて、「隠したい過去」を導き出す(見つけに行く)といった取組みの深度が必要です。
企業の取組みが表面的であればあるほど、反社会的勢力にとって、実態や手口、真意(狙い)の隠蔽や偽装が容易になるのであり、企業が「面倒だから」「難しいので」と言うこと自体が、相手に隙を見せることになるのです。
また、反社会的勢力は、その人脈や情報ネットワークを駆使して企業に接近し、いったん企業と関係が生じれば、そのネットワークの関係者が一斉にアプローチしてくるなど、「面で活動する」という行動様式があり、その意味では、反社会的勢力に関する端緒(兆候)は、社内外の様々なところに点在するといえるでしょう。
このように、反社チェックの調査範囲としては、対象自体だけに限定することなく、例えば以下のような過去の関係者や周辺の関係者にまで調査対象を拡げることが見極めの精度を高めることにつながり、経験則上も、とりわけ外から見えにくい、一見しただけでは分からない部分に反社会的勢力が潜んでいることが多いと言えます。
○退任した役員
○子会社や関係会社
○主要な取引先
○主要な取引先等の紹介者(仲介者)
○主要株主
○主要な従業員(取締役以外の執行役員、中途入社した部長など)
○顧問や相談役、コンサルタント、アドバイザー
○外部から招聘した取締役・監査役およびその経歴先企業
○投資先・融資先
○法人所有不動産や役員個人所有不動産の債権者など
2) 反社チェックの調査手法
更に、実効性ある反社チェックのためには、調査範囲を拡げるだけでなく、データベースの限界もふまえ、多面的な角度からの調査(情報の収集・分析)、複数の調査手法を組み合わせていくことが求められます。そして、そこで得られるひとつひとつの端緒情報を積み重ねることが、見極めの精度を高めることにもつながるのです。
ここでいう多面的な調査手法としては、以下のようなものがあり、具体的な調査の範囲・手法・深度について、自社の反社会的勢力の定義をふまえ、どこまで踏み込むべきか、それを業務プロセスの中にどのように落とし込んでいくかを検討しなければなりません。
○公知情報スクリーニング(データベーススクリーニング)
属性要件・行為要件・コンプライアンス違反等への該当事実の確認
○登記情報分析
商業登記簿謄本・不動産登記簿謄本の記載内容、企業の来歴の精査
○風評の収集
インターネット上の風評、業界・近隣の噂、外部ネットワーク(特防協等)での情報交換などによる懸念事項の抽出およびその信憑性の精査
○取引状況の確認
取引開始の経緯・紹介者・選定理由、取引途上の懸念事項(異例・例外事項、資本政策や役員・株主の動向、与信状況、排除条項の締結状況など)
○現地確認・実態確認
実在性、事務所周辺の状況、業務実態の確認
○財務分析
資金・資産の社外への流出、キャッシュフローの変化、粉飾、借入先・投資先等の精査
○日常業務における端緒情報
フロント企業の認知においては、通常とは異なる「異様・違和感・例外」といった端緒情報が重要であり、定点観測的なチェックだけでなく、日常業務において、いつでも、どこからでも組織的に収集できる仕組み(例えば、内部通報制度など複数の報告経路や、取引先管理台帳・業務日誌等の情報の共有など)を備えておくことも重要なポイントです。
3) 反社チェックの実施部門
反社会的勢力への組織的対応の要として、「政府指針」においても、「反社会的勢力対応部門」(以下「対応部門」という。)の設置が推奨されています。
反社チェックを対応部門が一括して行うことは、見極めのためのスキルやノウハウの集積、端緒情報の集中、対応の一元化など、反社会的勢力の見極めに高い精度が期待できるという点で大変望ましい反面、実際には、当該対応部門に業務が集中し、業務の効率性が阻害される点や、見極めに必要な「目の前の相手をよく観察する」ことから得られる端緒情報が上手く集約されるのかという深刻な問題点も存在します。一方で、反社チェックの実施から取引可否判断に至る権限を、取引担当部門(現場)に委譲して完結させるとの考え方もあり、その場合、業務の効率性は確保できますが、「取引可とする(取引可としたい)ための形式的な調査」に偏向する危険性や、属人的な調査スキルや判断基準により見極めレベルがばらつくリスクを孕んでおり、危機管理上はやはり大きな問題があります。
従って、実際の反社チェック実施体制としては、「現場の眼」と「専門部門による一元的な調査・分析・判断」を融合させ、調査の目的を全社で共有し、必要な情報が必要な範囲で共有できるよう、役割を適切に分担することが望ましいと言えます。
なお、対応部門には、営利に惑わされない公正・客観的な判断や厳格な情報管理が求められるため、業務ラインから独立した、コンプライアンス部門、法務部門、総務部門などが当たることが多く、内部監査部門との連携も重要な観点です。
4) 業務プロセス
前項の反社チェックにおける「現場と対応部門の役割分担」の具体例は以下の通りです。
○取引担当部門(現場)
端緒情報の収集(同業他社や近隣での評判、実態確認、紹介者や取引経緯に関する情報など)
○対応部門
現場の情報の収集・分析、公知情報や登記情報分析、ネット上の風評チェック、外部専門機関との連携(情報収集・調査依頼)、取引可否判断への関与など
反社チェックの業務プロセスの検討にあたっては、上記の役割分担を含め、想定した反社チェックの範囲や深度、調査手法をいかに実現するかがポイントであり、一方で、それを、既に行っている与信管理や、取引前に当然行っている情報収集・調査、取引可否判断等の業務プロセスの一環・延長と捉えると良いと思われます。
具体的な業務プロセスの検討においては、以下のような点に注意が必要です。
○タイミング
チェックや取引可否判断のタイミングについては、法的なリスク(契約準備段階における信義則上の注意義務)や取引不可の際の対応の難しさ等を考慮すれば、見積提出や契約締結段階より出来る限り前倒しで実施することが望ましいと言えます。
○記録・報告・情報共有・保管
取引担当部門(現場)が自ら「関係を持つべきでない」との判断で取引を見送った場合や、対応部門が取引不可と判断した場合、取引不可における現場での対応結果など、経緯の報告・記録・保管(データベース化を含む)、外部専門機関への相談、経営トップへの報告、社内における情報共有のあり方等について、あらかじめ決めておく必要があります。
○取引要件化
必要な調査を基にした組織的判断がなされていることを取引の要件として、適切な牽制機能とあわせ、例外のない運用を担保する仕組み(システム的な制御やモニタリングなど)が必要です。
このように、実際に反社チェックを業務プロセスに具体的に落としこむことによって、反社チェックの限界を認識し、そのことによって自社の反社会的勢力の定義が一層明確になるとともに、「認知・判断・排除」のプロセスの重要性・一体性が具体的にイメージできるようになると思われますが、そのようなシビアな状況認識こそ危機管理では重要です。
実効性ある反社チェックとは、反社会的勢力対応における発想の転換、すなわち、「特定の部門・人による有事の際の排除」から「全員参加による、組織的な、平時における有事への備え=平時と有事の連続性を重視した取組み」への転換を求めるものであり、見極めから排除に至る一連の取組みを支えるものに他なりません。
次回以降は、反社チェックの結果をふまえた取引可否判断のあり方や、より具体的なチェック要領などについて踏み込んでいきたいと思います。
<参考リンク>
▼ 「企業が反社会的勢力の被害を防止するための指針」(平成19年6月)内閣府
▼ 「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針に関する解説」(平成19年6月)内閣府
- 芳賀 恒人
- 株式会社エス・ピー・ネットワーク
- 総合研究課兼コンサルティング課
警視庁・道府県警の出身者をはじめ、企業危機管理に伴う法務・労務・財務・広報等の専門家で構成されるクライシス・リスクマネジメント専門企業。
反社会的勢力の見極めから排除実務、企業不祥事等に伴う緊急対策支援に至る「直面する危機(クライシス)」対策等に数多くの実績を有し、実践から導かれた理論に基づき「潜在する危機(リスク)」の発現を未然防止するためのコンサルティングと人的支援を展開する。従来の枠に留まらない危機管理的視点からの実践的なコンプライアンス体制や内部統制システムの構築を多くの企業で手がける。会社法の改正等の経済界の流れを先取りした先駆的企業危機管理論には、上場企業や株式公開を目指す企業だけでなく、金融機関や監査法人からの支持も厚い。
株式会社エス・ピー・ネットワーク ホームページ
筆者は、企業のリスク抽出・リスク分析ならびにビジネスコンプライアンスを中心とする内部統制システム構築を専門分野とするリスクアナリストとして、これまでに、企業の反社会的勢力排除の内部統制システム構築・運用支援コンサルティングや排除計画の策定・対応支援等の業務を多数手がけるほか、「SPNレポート~企業における反社会的勢力排除への取組み編」を取りまとめ、犯罪対策閣僚会議下の「暴力団取締り等総合対策ワーキングチーム」での報告をはじめとして、企業の反社会的勢力排除に向けた取組みに関する講演等を数多く行っている。




