
静岡県焼津を地盤に、マグロを中心とした魚介類の卸しや保管倉庫業、切り身などの魚製品の加工販売、漬け魚をはじめとする魚料理用加工製品の開発・販売などを手がける。また「まいどおおきに食堂」の飲食店のフランチャイズ店も経営。
■先代に使えてきた古参社員と、どう相互理解を作っていくか
祖父から父へ、そして母親へと引き継がれてきた家業、そういう経営スタイルにおいては、今までの当社の長い歴史を作ってきてくれた家族のような社員が多数います。ですから事業を引き継ぐにおいては、そういう古手の社員とどう向き合っていくかが非常に大事な要素でした。
私は20代前半の3年間、築地の大きな水産商社に勤めていました。そして後継として当社に入社したとき、あまりの企業文化の違いに驚きました。そして「これは何とかしなくては」、そう思ったのです。
一方で古手の幹部社員の意識は全く逆です。私が子供の頃からよく現場に出ては可愛がってもらっていたものですから、彼らからしたら「無知なおぼっちゃん」です。言い換えれば「俺が面倒見てやるよ」、そんな感覚だったのではないかと思います。
ですからその意識の差から生まれる軋轢のようなものは多々ありました。特に会社の中枢を担ってきた番頭格の幹部とは、「二つの派閥がある」と外部の人から噂されたくらい、当初は犬猿の仲でした。
でもあるとき、先代を知る取引先の方から「そういうあなたの会社の生き字引のような人を大事にし共存できるようではないと、しっかりとした経営は出来ないよ」と言われたのです。
その言葉は今でも印象強く覚えているほどに、非常に大きな転換点となりました。そこからはムキになって意見を戦わせるだけではなく、「何事も受け止める度量の広さ」そういう姿勢を積極的に表に出すように心がけたのです。
■「マナーを大事にし気配りができる人」。職人であっても求めるのは技術以上に人間性
日常の挨拶はもちろん、分からないことがあったら素直に頭を下げてお願いすること、してもらったことにはすぐに「ありがとう」を言うこと。ごくごく基本的なことですが、そのような社員の立場を理解し思いやり感謝を示し続ける事で、それが社長としての存在感の強さになり、相手も認めてくれるようになってきました。
ただしこの場合は、相手に「変わろうとする意思」が有ったことも大きいです。当社は水産業の卸であり加工業者ですから「職人気質」の人が多いです。
もちろん「職人気質」そのものが悪いわけではなく、協調性があったり後輩に親身に指導してくれるような人ならいいんですが、技術があることを逆手にとって「先輩風」を吹かしたいだけの人も多かった。
当然そういう人は職場環境も悪くしますし、会社の発展には障害となっていく可能性が高いです。
ですからことあるごとに、「当社では技術があることそのものではなく、例え技術力が低くても、その不足分を補うような努力や仕事をしようとする人、そういう考え方の人をこれからは大事にしていく」そう言い続けました。
結果、今までのやり方を変えようとしない、協調性の無いタイプの社員は次々と会社を去っていきました。
ただ誤解の無いように言っておきますと、いまでも長期にわたって働いている社員も何人もいます。中には15歳に当社に入って、もう70歳近くにもなる長老社員もいます。55年間も当社にいつづけてくれるのは非常に光栄なことだと思いますし、当社に愛着を感じてくれる社員が、ずっと長く働ける会社にしていきたいという思いはいつも強く有ります。
■事業内容は大きく変化させられない、しかし社内の文化や価値観を変える事で会社は変わる
番頭格の社員とビジネスが協調できるようになり、私が目指す会社には合わない社員が去っていくようになるころから、「CI」というものを意識し始めました。
祖父や親から引き継いできた事業であり、古くからの社員が多くいる会社で、事業内容をいきなり大転換するのは難しい。しかしやっていることはあまり変わらなくても、働く人の意識を変える事で「全く新しい会社」を作り出すことが出来る。そう考えたのです。
まずは分かりやすいところでは、企業名の変更です。「丸入商店」という個人商店のイメージから「マルイリフードサプライ」に社名変更しました。またそれにあわせて、約5年を掛けて企業理念や人事制度、中期経営計画などを次々に策定していきました。
そしてそれらを私だけで決めていったのではなく、若手中堅幹部を中心に勉強会を重ね、策定していたのがよかったと思います。任されたみんなが「自分の会社の将来」を真剣に考え、「会社がどうあるべきか」を追求し続けました。そしてそのメンバーが今の会社の中枢として動くようになってきましたから、会社の文化や方向性に一貫性が出てくるようになったのです。
このように、「社員みんなの働き甲斐」や「自主性」にはかなり重きを置いています。
それが一つの成果になったのが、「まぐろコラーゲンLA SOLE LUNA」という全く新しいジャンルの商品開発です。私があるときこの分野の新商品開発を営業のスタッフに打診したところ、女性社員二人から「是非やりたい」と要望が出ました。そして私はその過程に殆どタッチしないまま、というより正直よく分からないまま(苦笑)、商品として出来上がったんです。試作の過程からパッケージのデザインまで殆どスタッフに任せていたのですが、彼女らは凄く張り切ってくれていましたよ。
いま水産業界は、大きな問題をたくさん抱えています。そして関わる業者の皆さんも苦しいところが多いです。私たちはその中で、いろんな苦難もありながらも地道に成長しなんとか現在に至っていますが、もっと事業を通じて成し遂げたいこと、伝えたいことがたくさんあります。
日本の魚食文化は世界に誇れるものだと思っています。無数の種類の魚介類があり、それが地域差が有り旬があり、一年中さまざまな味覚として楽しむことができます。しかし一方で、名称を偽ったり、本来あるべき姿ではない形で消費者に提供されていることが少なくないのも、この業界の弱いところです。
私たちはこの会社を通じて、より美味しいいいものを確実に皆様のお手元に届くようなビジネスを手がけられるような力を、何とかつけていきたいと思っているんです。
< 2009/6/5取材 文責 北村 和郎 >








