株式会社虎の穴

株式会社虎の穴
代表取締役
吉田 博高

漫画・同人誌・アニメグッズなどの販売を核に、キャラクターグッズ制作、クリエイターの発掘育成を手掛ける。アキバ文化を牽引する業界のリーダーカンパニーとして、秋葉原を基点に北海道から九州まで全国15店の直営店舗(コミックとらのあな)を展開。

顧客視点の本質を見つめなおし、企業規模拡大がもたらした社内のひずみを払拭

■企業が成長し続ける事で見えなくなってくるものがある

当社は設立後、アキバ文化への注目の高まりを追い風に順調に業績を伸ばしてきました。13期の間、ほぼコンスタントに前年比15-20%ずつ毎期の売上を伸ばし、200億円台が視野にはいるとともに、業界での評価のみならず社会全体から認知・評価される企業に育ってきました。

しかしそれとともにいろんな懸念や矛盾も見え始めてきました。

全国に店舗を広げ従業員数も800名を超えてくる中で、会社全体が見通しにくくなって来たのが第一点。

そして規模の拡大によって、必然的に高まってきた役割分担や権限委譲という言葉の、「任せる」ということの意味がずれてくるようになってきたことがもう一つです。

例えば店の品揃えにおいては、お客様のニーズに目を向けるのがごく当然のことです。

でもそれを忘れて自己満足的な商品構成をしがちになったり、また目論見違いになるのが怖くて勇気を持った仕入れが出来ず、大きな販売機会を失ってしまうようなことも出てきました。

お客様の期待に応えることが、結果当社の商機になり業績に貢献することになるので、本来、部門を任せられた従業員は、会社の顔としてお客様にしっかり向き会うという意識が重要です。しかしそれが少しずつ曖昧になってきたんです。

一方で「業界での評価」の向上も、お客様に向き会う意識を逸失させる機会になったりします。創業当初は「怪訝な目で」見られがちだった当社も、最近では出版社や業界関係者から「よく頑張ってるね」「すごいね」といわれることが多くなりました。ですからついその言葉に甘んじてしまうんです。

私たちが求めなくてはいけないのは、業界の評価ではなくてお客様の支持です。しかし各社員がそれぞれに権限を持つことで、逆に見ている方向がバラバラになる懸念も徐々に増えてきました。


■赤字決算を機に、本格的な意識改革を

実は前々期(2008/6)決算は、創業後初めての赤字決算でした。しかし赤字決算であることをあえて良いキッカケとして従業員の意識改革に迫ろうと考えました。ちょうど本社を秋葉原から千葉県市川市へ移転したこともあって、社内では少し不穏な空気があったりもしたんです。「なぜメッカの秋葉原から出てしまうのか」といったように。でもだからこそ社内を見直すのにちょうどいい機会になったと思います。

実施したことは本当に基礎的なことばかりです。社是・社訓といった会社の行動規範をあらためて見直し共有すること。「報連相」や掃除や挨拶など、人としての基本的な行動の徹底、そして全員の顔が見えるようなオフィス空間作り、そういったようなことです。

それはトップダウンスタイルの再徹底でもあります。創業時は当然トップダウンの経営ですが、規模が大きくなるにつれボトムアップ的な権限委譲に重きを置いてきました。しかし先ほどもお話したように「権限委譲」も諸刃の剣です。会社の全体的方向性や、あるべき姿が周知徹底されていない限りは、「任せる=放任」でしかなくなってしまいます。ですから再度トップダウン経営に徹して空気を引き締める必要が出てきた時期なんだと思っています。


■売るものは「モノ」ではなくて「サービス」であるということ

前期決算が赤字だった事で、社内にも緊張感が生まれたんでしょう。これらの初歩的、基本的な行動の見直しも、社内ではしっかり受け入れられたようです。

すごく当然のことですが、お客様の視点に立ってその期待や要望に応える仕事をすれば、おのずと結果(販売実績)がついてきます。それはお客様にも喜んでもらえたということであり、企業の業績にも貢献したということです。そしてさらに自分の給料が上がる可能性も高まります。

そういう当たり前の原理をしっかり浸透させる事で、「言われたことをしっかりこなす」ことにも抵抗が減ってくるでしょうし、逆に経営陣がしっかり従業員の行動を見ていることを意識させる方が、頑張りやすかったりもします。

そしていま徹底しているのが、私たちが売るものは「モノ」ではなくて「サービス」であるということです。

お客様がお金を払うのは、結果として「商品」というモノです。でも、その「購買行動」にいたるまで、
①店の立地
②店の外観
③店内のフロア構成

こういうハードの部分が、まず来客要因になりますし、店内に入ってからは、

④店内の雰囲気
⑤商品の品揃え
⑥店員の服装や機敏さ
⑦店員さんの専門的な知識
⑧店員の応対など

今度はこういうものが、購入動機になります。
ですから、これらをどこまで満たしているかで売上は大きく変化します。

この中で①~③は、経営陣や店舗開発の担当の仕事。でも④以降は、店舗運営に関わる全ての人が意識しなくてはいけないことです。

「商品点数が沢山あるだけでもダメ」「売れ筋を揃えていると言うだけでもダメ」で、お客様が求める要望をどこまで理解し応えることができるか、そういう視点で自分たちの立ち位置を再認識することが、いま何よりも社内で強く共有していることです。

<2009/7/29訪問 文章 北村和郎>